#27「前途多難にもほどがある」

おかやん

前回の復習

レオ〇レスで見つけた物件に引っ越してきた私たち。

ワンルームとはいえ、ちゃんとした「家」にホッとしていた。

フローリングにレジャーシートを敷き、車に入れっぱなしの毛布をかけて、着ていた服を枕に、目を閉じた。

……寝れない。

床が固くて、痛くて、眠れない。

寝てはすぐに起きるという、そんな一夜が明けた次の日のこと。

布団ってすごい

「布団を買おう! いますぐ!!」

朝6時。私は夫にそう言った。

敷いていたレジャーシートを「二度と使わん」とばかりにきつく丸めながら。



故郷を飛び出して3日目の朝だ。

寝る前の幸福さは、寝不足ですっかり掻き消えていた。

「確かに、これはすぐに要るな……」

同意する夫も、だいぶ参っていたようだった。



朝早くから、どっかのコンビニで買ってきた広島の地図を広げて、2人でのぞき込む。

そして同時に思った。

「(……店の名前で何屋さんなのか判別できない……)」

これ、引っ越しあるあると思うんやけど(笑)

この頃は今みたいにスマホもないし。

それでなくても私は無知だし。

地図を見ても、どこへ行くのが正解か分からなかった。

布団を買うのに「ホームセンター」へ行けばいいってことだけは分かる。

この「名前で判別出来ない」問題は、スーパーとか、当時はちょいちょい難儀したなぁ。




知っている店へ行く

ホームセンターといえばコー〇ン。

地図を見る。

よし、コ〇ナンならある。

ここへ行こう!

と、開店時間に合わせて、車で行った。

時間にして1時間ちょっと。

遠い。

でもそこしか分からない。

だから行くしかない。

後々知ったんだけど、車で15分以内のところに3件はホームセンターが存在していた。

ガソリン代も時間も無駄にしていた、あの頃。

「情報」というものが圧倒的に足りていなかった。

広島に友人でもいるなら、簡単に聞くこともできただろう。

「図書館へ行って調べる」ということさえ思いつきもしなかった。

「情報弱者」という言葉が、当時の自分たちにはぴったりだった。

「無知」は、本当に貧乏を引き寄せるのだな。

私が尊敬するマーケター・森岡毅さんの本にも、こう書いてあった。

資本主義とは、無知であることと、愚かであることに、罰金を科す社会である

「苦しかった時の話をしようか」森岡毅

本当にその通りだな、と今なら思い返せる。

ここから18年間、私たちはまさにこの「罰金」を払いながら生きていくことになる。

それでどれだけ損をしてきたか、分からないほどに貧乏の底を這いずり回ることになる。

それほどに、私たちは情報弱者であったのだ。

──と、反省はしているのだけれど、はしていない。

だって、苦しくはあったけれども、それでも私たちなりに楽しい時間を過ごせた。

「遠いな~」と言いながら、地図を見つつ何とか行った〇ーナンへの道のりも。

往復2時間かけて1番安いダブルの布団を選んだ時の会話も。

真新しい布団に寝転んで昼寝をしたあの安らぎも。

いまだに憶えているのだから。

その日の夜

昼寝はしたものの、夜だって当然寝る。

さて。

日が暮れたらば、当然ながら3度目の夜が来た。

1日目は古びたホテルでの不安だらけの夜で。

2日目は固い床での眠れない夜で。

でも今夜こそは……っ!

だって家もある。

布団もある。

これはもう安眠確定だ!

「うふふ~、これでやっとゆっくり眠れるね~」

窓の外では激しい雨が降っていたけど、私たちの心は晴れ晴れ!

「おやすみ~」

と言い合って、目を閉じた。


……だが、そんな日に限って事件は起きた。


寝て、しばらくしたころ、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえてきた。

外はどしゃ降りの雨だ。

音は良く響いていた。

まるで家の中から聴こえるように、ぽちゃんぽちゃんと雨漏りの音が届く。

「………?」

異変に気付いたのは夫の方だ。

トイレに起きたのか、彼は玄関へ行った。

「おかやん! 起きろ! 家の中が大変なことになってる!!」

あ~ん?

せっかく気持ちよく寝てたのに、もっと寝かせてくれよ……と思ったが、起こされたのなら起きるしかない。

そんな不機嫌さをひきずって、目覚めたウチが見たのは「水たまり」。

「は? なん?? この水……」

玄関に、1メートル以上の大きさの水が広がっていた。

「なんじゃこりゃーー!?」

ぽたぽたと、天井から雨がそのまま家の中に落ちてきて、水たまりがひろがっていく。

じわじわと侵食するような水に、言いようのない恐怖を覚えた。

結局。

3目日の夜も、寝るどころではなかった。





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アラフォー主婦のノンフィクション雑記ブログ
21歳で駆け落ちした経歴を持つ、現在39歳の未亡人です。 このブログが多くの人に読まれ、亡くなった夫のことを私以外の誰かにも知って欲しい。
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