21歳で妻子持ちと駆け落ちした私の話 10

おかやん

変化



船で犯した過ちは忘れられることなく、重く自分にのしかかる。

やろうと思えば、何食わぬ顔してK君と付き合い続けることもできたと思う。

誰にも言わなければ……自分たちだけが体感した秘め事として、文字通り「一夜限り」となっただろう。

──でも、そうはならなかった。

少なくとも私は、関係を持ったその瞬間に気持ちが変わってしまった。

Kくんより先輩の方を好きになってしまった。

そこからどうにもKくんとは付き合えなくなった。

私は二股を掛けられるような器用な女ではないし、かといって恋愛的な好きを失ってしまったまま付き合うのは、それこそ不誠実だ。

正直、私には「キープをする」という感覚は分からない。

他に好きな人がいるというのに、自分を想う人を都合良く手許に繋いでおくというのは、その相手を軽んじているようにしか思えない。

というか、そういうことを思うこと自体、傲慢だなと思う。

世の中には「もったいない」とか「いざという時のため」とか「欲求不満解消」とか、そんな心理からスパッと縁を切らない男性女性がいるが、私には良く分からん。なんだその理由。お前は何様だ。

先輩はどちらかというと、そういう傾向にある人だった。


Kくんとの最後




私はわりとすぐにKくんに「他に好きな人が出来たから別れて欲しい」と告げた。

めっちゃすぐ告げた。なんなら次の日くらいだったかもしれない。

久しぶりに会って開口一番言ったことがそれだった可能性がある。

……もう忘れたが。

どんな状況だったか、どう説明したかも覚えていない。

ただ私は昔から嘘をつくというのがめちゃくちゃ苦手なので(小学生の時それでおばあちゃんに叱られたことがある)、何があったか歯に布着せず言ったんだと思う。

K君からすれば寝耳に水とでも言おうか、青天の霹靂と言おうか。

とにかく突然に別れを言い渡されて、さぞや驚いたはずだ。

私たちはそんな風にして別れた。

だけどカレカノ関係解消後もしばらくは普通に会ってたりした。

私の部屋にKくんの私物も結構まだ残ってたし。

だけど一週間くらいしたある時「なんかもうダメだ」と思った。

なんでそう思ったかも覚えてない。ただ強く「もう会いたくないな」と思った。「会わないほうがいい」でなく「会いたくない」という感情の方が先行してたから、原因は間違いなく私側にある。でも、理由は未だ覚えていないし、自分でもよく分からないままだ。

次に会った時、私はそのことを即座に伝えた。

「この先二度と会いたくない。完全に縁を切ろう。もう家にも来ないで」と一方的にそう告げるだけ告げて背を向けた。

「なんなんさ、それ!!」と、突然の大声が広い駅に響き渡る。

大勢の通行人がKくんを振り返った。

私だけが振り返らなかった。

あの声の悲壮さだけしか記憶していない。

……身勝手だった。残酷だった。

それでもそうする方法しか、あの時は思いつかなかった。

上手い別れ、綺麗な別れって、この世にはないんだろうな。

こんな感じで終わらせて──いや、終わらさせられて。

彼はさぞ私を憎んでいるだろう……と思っていた。

だから、母からの「Kくんから連絡あったで〜」の一言は驚きでしかなかった。

Kくんの「近況を知りたい」という気持ちは一応あるものの「出会えば穏便では済まないだろうな」と思うのは、ここまでされたにもかかわらず、彼は私にまだ未練があるようだからだ。

私が先輩に対して抱くこの……いまだ消えることなく胸の奥底でくすぶり続けるこの苦味を、Kくんも私に対して抱いていると信じてたのに。



二度目の関係

別の大学に通っている先輩だったが、まぁよくウチで練習していく先輩だった。

今思えば「うまく仕組んだモンだ」と、感心と呆れで首を振ってしまう。

でも当時の私はそんなことにすら気付かない、真っ直ぐで愚かな19歳だった。

二度目の「それ」は、意外とすぐにやってくる。

それは船での一件から一ヶ月と経たない休日だった。


フェリーでのことは、Kくん以外には告げていなかった。

水面下は穏やかでなくとも、部活動はいつも通り。

土日の部活は講義がないのでいっぱい練習できるし、その先輩が来るのもだいたい土日だ。

その日の土曜も先輩は練習に来た。

お互い、目配せやら見つめ合ったり──なぁんてことはしない。てかない。

そんな甘い関係ではなかった。

一夜限りということは承知だったが、それでもなんとなしに「アレで終わりかぁ」といった諦念があり、とはいえ私からなにかアクションを起こすにしてもどうすればいいのか分からなかった。

とにかく「2人で話す」という機会がまったくないのだ。

部活動なので基本的に部のメンバーで固まって動くし。

帰り道も全員が同じ電車に乗り込むし。

先輩の家も知らないし、仮に知ってたとしても当時の私にはちょっと遠かった。

「もう一度話したい」と思うものの、それさえも上手く伝えられなくて、このままなのかなぁと思っていたところへ、先輩が部室に忘れ物をした。

私だけがそれに気付いたのはなんだか不自然だったと思うけれど、その時の私は「ラッキー」としか思わなかった。

私はいそいそと先輩にメールをした。

「あ。ごめん。忘れてた。悪いんやけど、持ってきてくれへん? 近くまで行くから」

単純に私は喜んだ。

「きゃー! やった〜!! 部活外で先輩と二人っきりで会えるぅーー!!」

などと思ったりした。

今思うと「あ゛ーーーーそんな見え透いた誘いにホイホイ乗ってんじゃないよ私はアホかーーーー!!」

である。

タイムマシンに乗ってあの頃の私を殴りに(以下略)

ああ、なんという幼い愚かしさよ。

そう。この時の私の目的は純粋に「好きになったからもう一度会って話したい」だったけれども、向こうの目的は違ったのだ。

フェリーでは状況が状況で、お互い気の急くまま……という感じで。先輩的には何かが不本意なアレだったらしく。

単にリベンジっぽいことをしたかったらしいんよね。たぶんだけど。

当時の雰囲気とか文脈から先輩の心情を読み取るとそんな感じ。

つまり私とは根本的に感情が違っていたという。

一言に集約すると「もう一回ヤりてぇ」だ。

そして私は、バカなことにそれに気付けなかった。



そういう流れで私は、部活のない日に先輩と二人っきりで会うことになった。

その日のことは長くなりそうなんで、次回に。



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アラフォー主婦のノンフィクション雑記ブログ
21歳で駆け落ちした経歴を持つ、現在39歳の未亡人です。 このブログが多くの人に読まれ、亡くなった夫のことを私以外の誰かにも知って欲しい。
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